SXS-VP645L 放浪漫 VESPADA Moderate Fast
和の伝統を受け継ぐ、浪漫と放浪のためのマルチピースロッド
現代日本のライトソルトルアーフィッシングに向けた新たな提案として、和竿と洋竿の双方がもつ利点の完璧なる融合を模索していた。これは長年にわたって私が夢想してきた釣竿の一つの結論でもあり、エポックメイキングなロッドの完成という点でも大きな意味合いを持つプロダクトだったが、それ以上にINX.Labelの“これから”を象徴する製品(作品)になったと言える。
昨今さまざまな知見を持つスタッフやメンバーが新たにINX.Labelに参画し、ある意味で“新生”といえる状態に変化しつつある。特に今回のヴェスパーダはインクス製品開発部門である「インクスラボ」において、新たにロッドビルディングを主幹することになったプロダクトデザイナー「松永 啓」が主導する形で開発を進めた。釣具工房としても新時代に入りつつあるINX.Label。それを象徴する最初のプロダクトがこのヴェスパーダだ。
「和と洋」及び「伝統と先進」が融合した新たなるルアーフィシングの世界観。INX.Labalの現在とこれからが表象された1本として、この「江戸前小継 一尺五寸 Vespada」を手にしたアングラーの、長く豊かな釣り人生を支える一助となれば幸いだ。
<INX.Label 代表 加来匠>
加来匠とインクスラボの理想が結実したフラッグシップモデル誕生
投げる。操る。感じる。掛ける。いなす。取り込む――。
多種多様な釣りジャンルや素材の発展目覚ましい昨今だが、釣り竿に求められるその本質的な役割と要素は変わらない。これはINX.label代表の加来匠と、内外のプロスタッフで構成される「インクスラボ」が、竿作りにおいて常に意識してきた哲学だ。
その哲学のルーツにあるのは、「延べ竿」を用いた日本の釣り文化である。微細な仕掛けを投げ、わずかな変化を感じ取り、竿全体のベンディング性能を使い切ることで想定外の大物にも対峙できる「延べ竿」は、釣り竿の一つの理想であり完成形ともいえるだろう。
では、この延べ竿をはじめとする和竿の文化やテイストと、ルアーフィッシングという西洋由来のスタイリッシュな遊びの文化、これらを完璧に融合させた作品を世に送り出せないものか――長年にわたって加来匠の根底にあり続けたその想い、その理想がついに結実した珠玉の1本、それが「江戸前小継 一尺五寸 Vespada(ヴェスパーダ)」だ。
釣り竿という道具としてのコンセプトから機能、そしてその佇まいまで、INX.Labelの一つの到達点としてお届けする、メーカーとして初の「フラッグシップ」の名を冠するモデルである。
モデル | 全長/ 仕舞寸法/自重 | 適合ライン/ キャストウェイト | ガイド | ブランク | 価格(税別) |
---|---|---|---|---|---|
SXS VP645L VESPADA | 6.45ft / 45cm / 105g | Max 0.6(PE) | チタン+トルザイト | カーボン92%/グラス8% | 税別75, 400円 |
5本継であることの意味と意義
延竿とルアーロッド。この両者は「意図的かつ高頻度に仕掛け(ルアー)を操作する」という点で竿に求められる機能が決定的に異なる。ルアーフィッシングに必要なキャスト性能と操作性を確保しながらも、和竿独特の繊細さと粘り強さを兼ね備えた戦闘力を表現するには、どのようなロッド構造をとるべきかという問題だ。この問いに対し、ヴェスパーダの開発を主導したインクスラボの松永啓が考案したのが、マルチピースの分節構造を活かした設計だ。
5本継のヴェスパーダは、バット部分を除くと、1番から4番の4つのブランクで構成される。つまり、4本のブランクをつなぐ、3つの「節(ふし)」を持つ構造である。通常この結節部は釣竿にとってはデメリットとなるのだが、ヴェスパーダではこの「節の強度」を適切に利用し、1番から4番にかけて、セクションごとにリニアにパワーを増す設計とすることでキャストやルアー操作に必要な張りを確保。そして魚を掛けてからは延べ竿のような美しい調子(ベンディングカーブ)を実現することに成功した。
思い描く調子を1ピースで実現し、それを分割するのではなく、継ぎ竿の構造を活かすことで求める和竿の調子を逆算してデザインする――松永は、「これはマルチピースだからこそ実現できた竿。ある特定の釣りをイメージするのではなく、竿という構造物としてどうあるべきかという本質を追求するように開発した」と話す。接合構造に「印籠継」ではなく「並継」を選択したのも、使用したカーボン素材を物理面から追い込んだ結果の、合理的判断によるものだ。
また、ヴェスパーダの開発するにあたっては、和竿について長い歴史と多くの知見を持つ【櫻井釣漁具】の協力を仰いだ。ヴェスパーダの各セクションのジョイント部分は、同社の和竿の匠による手作業で仕上げ調整を行っている。まさに日本の伝統技術と知見が込められた継ぎ竿といえよう。マルチピースとは思えない佇まいと共に、その“継ぎ味”もぜひ楽しんで欲しい。
荷重移動の速さがもたらすバーサタイル性能
ヴェスパーダの調子を言語化するならば、“和竿の流れを汲むモデレートファースト”と表現できるだろう。だが上述のような構造をとることで、ヴェスパーダの調子には、一般的な表記では表現しきれない大きな特性が付与されている。それは負荷が掛かった際の荷重移動の速さだ。扱うルアーやリグの重さなどによる負荷の変化に応じ、トップからバット部分まで、素早くシームレスに荷重が移動する。つまり“働くべき部分が、すぐに仕事を始める”ということだ。
これによりキャスト時は、1~2g程のリグであれば1番部分が仕事をするファーストテーパーのテイストで、重い7g程度のリグであればレギュラースローのようにしなやかなベンドでキャストをアシストする。結んだルアーの重さに応じ、各セクションが能動的に機能するという、投げ手を選ばない懐の広いキャスト性能を感じられるはずだ。この調子特性は、不意の大物にも竿全体で対応し、その鞭のようなしなやかさで魚を不用意に暴れさせずに獲り切ること――まさに和竿のような性能を体現することにも大きく寄与している。約6.5フィートというレングスと、細身ながらも延べ竿のような粘り強さを見せるブランクのテイストは、“ちょっとした小物釣り”から“本気のやりとり”までをカバーできることを重要視した上での設計だ。
操作や感度の面では、マイクロメタルからジグヘッドリグ、プラグまで、一般的なライトゲームで用いられるスタイルを広くカバーできる設計を意識した。調子にクセがなく、負荷に応じて瞬時に適切なセクションが働くことにより、ジグヘッドを利用したスローな釣りや、トゥイッチアクションを多用する70mm程度までのプラグを使ったミノーゲーム、時にはちょっとした餌釣りまで、使い手次第でさまざまな意図に応えてくれる、まさにバーサタイルなモデルだ。
フラッグシップに相応しい意匠と機能を追求
ヴェスパーダはINX.Label初のフラッグシップモデルとして、各所のパーツもこだわりぬいた一品を取り入れた。リールシートには木材を高圧縮処理したウッド素材の高感度リールシートを採用。グリップエンドには滑りにくく丈夫な「綿糸巻き」を採用し、和と洋のテイストを絶妙にブレンドしつつ、機能とデザインを高次元に両立させる意匠となっている。また、手との接点になるグリップ部分にはコルクを採用しており、使い込むほどに使い手に馴染み、道具としての趣(おもむき)と品格が増すデザインとなるよう意図した。
ブランクのカラーは、INX.Labelのプロダクトではおなじみとなっている「アイリッシュグリーン」を基調に、ヴェスパーダのコンセプトに合わせた色合いにチューニングを施している。ソルトゲームだけでなく、渓流などの淡水域まで、どんなフィールドに持ち込んでも違和感のない品格を持たせたデザインだ。
気ままに赴いた旅先で、一体どんな魚との出会いが待っているのか。そんな浪漫に溢れた釣行において、「何でどう釣るか」を事前に決めてしまうというのは野暮なもの。その時々における釣り人の自由な感性の表現を支える、真の意味でバーサタイルな1本であって欲しい――ヴェスパーダのブランクに刻印した「放浪漫」にはそういった願いも込められている。